前回macOSターミナル6種を比較した際、「AIエージェント時代のターミナルは別途紹介します」と予告しました。今回はその続編です。
前編を書いた時点では、ターミナル選びの基準は速度、機能、仕上がりでした。しかし半年も経たないうちに状況は一変しました。Claude CodeやCodexのようなコーディングエージェントをターミナル内で動かすのが日常になり、今や重要なのはエージェントを何個、どれだけ快適に並列実行できるかです。
まず結論からお話しします。
私はGhosttyからcmuxを経てOrcaに移行しました。cmuxは縦型タブと通知だけでも並列作業を大幅に快適にしてくれましたが、最終的にはエージェントを複数並列で動かすワークフローに最初から最後まで合わせて設計されたOrcaに落ち着きました。好みによってはcmux、Conductor、Claude Squadも十分よい選択です。
この記事では、2026年7月時点で並列エージェント時代に使えるターミナル・オーケストレーター6種を比較し、私がOrcaに落ち着いた理由をまとめます。
なぜ「並列エージェント」ターミナルなのか?
コーディングエージェントを使うと、すぐに気づくことがあります。エージェントが作業している間、人は待つということです。
エージェントがリファクタリングに5分、10分かけている間、開発者は画面を見ているしかありません。そこで自然に「待っている間に別のエージェントへ別の仕事を頼もう」という発想が生まれます。これが並列エージェントワークフローです。
問題は、通常のターミナルでこれを行うには障壁が多いことです。
第一に、同じリポジトリで2つのエージェントが同時にファイルを変更すると、互いの作業を上書きします。そのためgit worktreeで作業領域を分離する必要がありますが、ブランチ作成、worktreeの追加、依存関係のインストールを毎回手作業で行わなければなりません。
第二に、5つのタブで5つのエージェントを動かすと、どのタブが終わり、どのタブが承認待ちなのかわかりません。タブを一つずつ確認するしかありません。
今日紹介するツールは、すべてこの2つの問題を解決するために作られています。
6つのツール、それぞれ異なるアプローチ
cmuxはManaflow(YC S24)が開発したmacOSネイティブターミナルです。
Ghosttyのレンダリングエンジン(libghostty)をライブラリとして取り込み、SwiftとAppKitで作られています。縦型タブのサイドバーには、各タブのgitブランチ、PR番号と状態、作業ディレクトリ、使用中のポート、通知バッジが一目で表示されます。エージェントが終了すると通知リングが点灯するため、寝る前に10個のエージェントへ仕事を依頼し、朝はバッジの付いたタブだけ確認する使い方もできます。GPLオープンソースで、GitHubスターは2万を超えています。最大の制約は、まだmacOS専用であることです。
Orcaはstably.aiが開発したオープンソースADE(Agent Development Environment)です。
ターミナルというより「エージェント艦隊管理ツール」に近い存在です。プロジェクトを登録するとworktreeの作成・分離・整理を自動で行い、Claude Code、Codex、OpenCode、Piなど25種類以上のエージェントをそれぞれのworktreeで実行できます。WebGLターミナル、VS Codeベースのエディタ、worktreeごとの内蔵ブラウザも備えています。iOS・Androidアプリで外出先からエージェントを確認し、指示を続けることもできます。MITライセンスで、macOS・Windows・Linuxをすべてサポートします。
ConductorはMelty Labs(YC S24)が開発した無料のMacアプリです。
Claude Code、Codex、Cursorエージェントを分離されたworktreeで実行し、変更をレビューしてマージする流れに注力しています。worktree作成時にgitが追跡するファイルだけをコピーするためnode_modulesが重複しない点、自動スナップショットでロールバックできるチェックポイント、同じプロンプトをClaudeとCodexに同時に送り比較するマルチモデルモードなど、細部が優れています。サブスクリプションは自分のものをそのまま使えます。
Claude Squadはターミナルから離れたくない人向けのTUIです。
内部ではtmuxとgit worktreeを組み合わせ、スロットごとに異なるエージェント(Claude Code、Codex、OpenCode、Aiderなど)を起動し、1つの画面で切り替えます。GUIなしでキーボードだけを使って並列エージェントを管理したいなら、これが最適です。
Vibe Kanbanは「エージェント向けカンバンボード」という独特なアプローチです。
カードをIn Progressへ移すと、エージェントが自分のブランチでその作業を引き取ります。ただし開発元のBloopは2026年4月にプロジェクトを終了し、現在はコミュニティがオープンソースとして維持しています。導入するなら、この点を考慮してください。
Warpは前編で「AI内蔵ターミナル」として紹介しましたが、その後、会社は方向性を完全に転換しました。
現在は自らをターミナルではなくADEと呼び、ソースも公開(MIT・AGPLデュアルライセンス)しています。2026年4月からはClaude Code、Codex、Gemini CLI、OpenCodeを通常のシェルプロセスではなく一級市民として統合し、エージェントごとに状態バッジ付きの縦型タブを提供しています。Ozというクラウドオーケストレーターでリモートエージェントも実行できます。
比較表
| ツール | 形態 | ライセンス | プラットフォーム | モバイル | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| cmux | ネイティブターミナル | GPLオープンソース | macOS | iOSベータ(有料アーリーアクセス) | libghostty、縦型タブ+通知 |
| Orca | ADE | MITオープンソース | macOS·Win·Linux | iOS・Android無料 | worktree自動化、オーケストレーション |
| Conductor | Macアプリ | 無料(非公開) | macOS | なし | チェックポイント、マルチモデル |
| Claude Squad | TUI | オープンソース | クロスプラットフォーム | なし | tmux+worktree、キーボード中心 |
| Vibe Kanban | カンバンボード | Apache | クロスプラットフォーム | なし | タスク中心、コミュニティ運営 |
| Warp | ADE | MIT·AGPL | macOS·Win·Linux | クラウド経由 | Ozクラウドエージェント |
すべて「自分のサブスクリプションを持ち込む(BYO)」モデルなので、ツール自体に費用がかかるケースはほとんどありません。
私がOrcaに移行した理由
前編ではGhosttyに落ち着いたと書きましたが、その後まずcmuxへ移り、最終的にOrcaに落ち着きました。cmuxはGhosttyのレンダリングの感覚を保ったまま縦型タブと通知を追加してくれるため、並列作業の入門として申し分ありませんでした。ただ使い続けるうちに、worktree管理からモバイルでの確認まで、エージェント並列ワークフロー全体をツールが受け止めてくれる体験が必要になり、それがOrcaへ移った理由です。
worktreeを意識する必要がありません。
プロジェクトを登録すると既存のworktreeまで自動認識し、新しい作業を始めるときも名前を1つ指定するだけで、ブランチ作成からセットアップスクリプトの実行まで自動で行います。「worktree管理」という作業が頭から消える効果は、思った以上に大きいものです。
モバイルアプリが実戦で役立ちます。
エージェントが終わるとスマートフォンに通知が届き、その場でdiffを確認して追加指示を送れます。帰宅途中にレビューコメントを残しておけば、家に着く頃には反映が終わっている、といった使い方ができます。iOSはApp Storeで無料、AndroidはAPKで配布されています。
エージェント同士を協働させられます。
CLIにオーケストレーション機能が組み込まれており、タスクを作成してエージェントに割り当て、エージェント同士でメッセージをやり取りさせ、人の承認が必要な箇所にはゲートを設けられます。予約実行(automations)もあり、「毎朝依存関係の更新を確認する」といった定型作業をエージェントに任せられます。
エージェントにさらに手足を与えます。
各worktreeに内蔵ブラウザがあり、エージェントがフロントエンドの変更を直接確認できます。UI要素をクリックすると、その要素のHTML・CSS・スクリーンショットがプロンプトに入ります。macOSアクセシビリティAPIベースのコンピュータ操作(computer use)や、iOSシミュレータの操作までCLIから利用できます。アプリ開発者には特にうれしい部分です。
diffレビューとサブスクリプション管理も内部で完結します。
diffの行にMarkdownコメントを付けてまとめ、エージェントへ返すレビュー機能があります。Claude・Codexアカウントを複数登録して切り替えながら使い、使用量と料金上限を追跡することもできます。
もちろん万能ではありません。cmuxのようなネイティブアプリ特有の軽快さを求めるなら、Electron系のOrcaは重く感じるかもしれません。また機能が多い分、最初に覚えることも少しあります。
では、どれを使えばよいのでしょうか?
状況別にまとめます。
macOSで軽快で高速なネイティブ体験が欲しいなら → cmux
ターミナル本来の感覚を保ちつつ、並列エージェントだけを追加したい人に最適です。Ghosttyの設定をそのまま引き継げる点も、前編の読者には魅力でしょう。私もOrcaに移る前にしばらくcmuxを使いましたが、Ghosttyからの最初の一歩としてこれ以上のものはありません。
worktreeからモバイルまで統合された環境が欲しいなら → Orca
エージェントの並列作業を「たまに行う実験」ではなく「基本の仕事の進め方」にするなら、最も完成度が高い選択肢です。私が落ち着いた理由でもあります。
レビュー・マージの流れが整ったMacアプリが欲しいなら → Conductor
エージェントの成果物を人が丁寧にレビューしてマージする流れに集中するなら、よい選択です。
GUIなしでターミナル内だけで完結したいなら → Claude Squad
tmuxに慣れていて、キーボード中心で作業する人に向いています。
作業をタスク単位で管理したいなら → Vibe Kanban
カンバンの考え方が身についているなら試す価値がありますが、コミュニティ維持モードである点は覚えておいてください。
クラウドでエージェントを動かしたいなら → Warp
ローカルマシンを離れてリモート・バックグラウンドエージェントまで広げる予定なら、Ozを備えたWarpが先行しています。
おわりに
前編では「ターミナルは速くて静かなものが最高」と書きましたが、半年でその基準が変わったことを認めざるを得ません。エージェントが開発ワークフローの中心になるにつれ、ターミナルはテキストを描画するアプリから、エージェント艦隊を指揮する管制塔へと進化しています。
幸い、今回紹介したツールはすべて無料またはオープンソースなので、気軽に一つずつインストールし、自分のワークフローに合うものを選べます。
皆さんはエージェントを何個まで並列で動かしたことがありますか?使っているツールとともにコメントで教えてください。

